日常が突然ロックになる!そんな夢が詰まった物語
ロックにまつわる情報を発信する者として、やっぱり最初に紹介するマンガは、やっぱりロックじゃなきゃ!ってことで今回紹介するのは人気ロックマンガにして王道、ハロルド作石先生の「BECK」です。
監督・堤幸彦、水嶋ヒロや佐藤健、桐谷健太など今は第一線で活躍している俳優陣が多数出演した実写映画化もされたので知っている人も多いと思う。
他にもアニメ化もしたし、アニメ、実写それぞれのサウンドトラックも発売された。
とにかく作品が出るたびに話題になっていた、そんな作品。
コユキの平凡な日常と"カッコいい"キャラクターたち
物語のあらすじはどこにでもいる普通の中学生、田中幸雄(コユキ)がギタリスト、南竜介(リュウスケ)と出会いバンド「BECK」のボーカルとして成長していく物語—。ではある。
あるんだけど、ぶっちゃけその日常は淡々と、そして不条理に過ぎていく描写が多い。
バンド活動を優先して馴染めなくなっていく学校生活(そして中退)。そのバンドも一向に売れずにバイトばかりの生活。
しかも初めて自主制作したシングルは変なアレンジを加えられて自分たちでも納得いかないデビュー作になるというような、マンガらしくないリアルなバンド活動が描かれているのが新鮮。
それでもこの作品が魅力的なのは、キャラクターがとにかく"カッコいい"から!
ケンカっぱやく、破天荒に見えて実は登場人物の中で一番人間的なラップボーカル千葉。
クールでメンバーからの信頼が厚いバンドのまとめ役のベーシスト平。
コユキの同級生で絶対的親友のドラム桜井のメンバーのほか、
関西インディーズシーンを代表するバンド・死亡遊戯のメンバー。
世界的な映画監督のジム・ウォルシュ。
そしてカリスマ的人気バンド・The Dying Breedのギタリストでリュウスケの親友、エディ・リー。
さらに各キャラクターからストーリーに深みを与える言葉が出てくることも。
ギターってのはたった6本の弦を伝わって出てくる人間性なんだ
エディ・リー
コユキのバンド、BECKと絆でつながったキャラクターがとにかく魅力的で盛り上げてくれる。
ライブ、音の表現に迫力と説得力がある
マンガには当然音が出ません。なのでライブのシーンなんかは特に書き方が難しいはず。
そこであえて、この作品にはドラムのベース音や会場の騒音、歓声だけで表現している。曲そのものの表現は一切ない。
さらにボーカルのコユキが歌ってる表現は一切音的要素の書き込みはない。表現上は無音。
コユキは人々を引き付ける天性の声で、誰もがその声に魅了される。それを強調するためにあえて無音にしたのだと思う。
これがこの作品の表現に深みを与えてると思う。有名なところではスラムダンクの最終戦、湘北対山王工業戦の最後の数秒の攻防みたいな。
CDジャケットのパロディーとリアルなアーティスト名が登場
ちょっと番外編的な魅力をひとつ。
それが有名なアルバムのアートワークのパロディーになっている扉絵。
これはパールジャムのアルバム「Vs」のアートワークとそれをパロった2巻の扉絵。
網に絡んだ羊を、リュウスケの愛犬、ベックにした遊び心が見える。
他にもニルヴァーナ、オアシス、クラッシュ、ジミヘン…
アートワークのほかにも、作者の趣味であるプロレスやブルース・リーのパロディーも豊富にちりばめられていて(こっち方面は私があんまり詳しくない…)それを探すのも面白い。
ロックマンガはロックを聴きながら。おすすめはイン・ユーテロ
コユキ個人では届かない夢も友人や仲間の絆とパッションを原動力にすれば突き進める。
そんな正と動の両極端を感じる不思議なバランス感を持った作品。
これ読んでると無性にニルヴァーナの「イン・ユーテロ」を聞きたくなるんだよねー。
どれってわけじゃなくてアルバム通しで。
作中、アメリカツアー編でシアトルでライブする回があって、グランジロックの聖地「クロコダイルカフェ」を模したリザードハウスっていうライブハウスやヴィレッタパークのカートがよく座っていたっていうベンチも出てくるし、作者の力の入れ具合を感じる。
夢を追うことは困難がたくさん。それでも突き動かす衝動に従って突き進む。
「BECK」にはそんなパワーがある作品だ。
作品 | BECK |
作者 | ハロルド作石 |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | 月間マガジン |
巻数 | 全32巻(完結) |